前回は、私がお寺に生まれながら、材料力学を専門とする博士課程に進学して、工学博士の学位をいただいたことまでお話しいたしました。
その後、村上先生の研究室で講師、助教授と職歴を重ね、それに伴って、材料力学に対する認識が変わってきたのでございます。
学生時代は、先生が示してくださることを基本に、問題に取り組んでいけばよかったのですが、教える立場になって、これまでわかっていると思っていたことはほんとうにわかっているのかということまで吟味していく必要があることがわかってきたのです。
私は、機械を作るための材料に力が働いて材料が壊れるか壊れないかということを研究しておりましたので、材料自体のこともある程度知っておく必要がありました。
私が普段扱っておりました金属材料は一般に結晶と呼ばれる粒の集まりです。
結晶は、原子が規則正しく並んでできています。
原子は、原子核と電子からできています。
原子核は、陽子と中性子からできています。
全てのものは、陽子と中性子と電子からできているのです。
陽子の数が違えば、元素が違うことになります。
1つなら水素、2つならヘリウムです。
元素の組合せで分子ができ、分子が集まって一般の材料となるわけですが、元を正せば陽子と中性子と電子なんです。
そしてこの私も、基本的には、水素と炭素と窒素と酸素の分子、すなわちタンパク質からできていますので、結局、陽子と中性子と電子の集まりなのです。
私が研究の対象としていた材料もこの私自身も元を正せば陽子と中性子と電子の集まりなのです。
方や、物言わずその本質を貫こうとし、もう一方のこの私は、暑いだの寒いだの、楽しいだの苦しいだのと思いながら生命活動をしているのでございます。
この不思議さに思いが至ったとき、この娑婆世界には人の知恵の及ばない領域が確かにあると愕然としたのでございます。
さらに、私の胸の奥で、全てのものは陽子と中性子と電子でできているという一般的な原子論が、仏様の悟りであります真如あるいは法性あるいは一如あるいは実相とスッとつながったのでございます。
続きは次回の端坊の担当の時とさせていただきます。