トップ > ネット法話

このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。[開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。

      中秋の名月と萩の花

曹洞宗・海潮寺副・木村延崇


 9月13日は中秋の名月でした。

 旧暦8月15日に相当しますが、本山での修業時代、この日の晩、皆で境内に出てお供え物をして、月に向かって般若心経をお唱えし、その後お団子をいただきました。

 厳しい修行期間の中で、この上なくほっとするひとときであったことが思い出されます。

 お月見は名月の観賞という側面だけではなく、地方によってはその日の天気から翌年の作占いをしたり、十五夜の下で相撲を取って年占いをします。

 ですから、農作物の収穫儀礼の要素も含む、宗教的側面があることも見逃せません。

 さて、私は今では子供たちと夕食後にお団子をいただきながら、窓越しのお月見をすることになっています。

 今年は日が暮れだした宵になると、東の空に昇り始めた美しい月を見ることができましたが、夕食を済ませていざお月見をと思い空を見上げるとすでに雲に隠れてしまっていました。

 お月見の主役はお団子だけではありません。

 ススキを初めとする「秋の七草」を飾ります。

 秋の七草の筆頭に来るのが「萩」ですが、実は草ではなく、植物形態上は樹木に分類されるそうです。

 ではどうして七草に含まれているのでしょうか。

 湯浅浩史さんの『植物でしたしむ、日本の年中行事』に二つの理由が挙げられています。

 まず第一に、昔の日本人はこの植物を草として扱っていたと考えられます。

 萩という漢字は、くさかんむりに秋、と書きますが、日本で作られた和製漢字ですから十分頷けます。

 さらに秋の七草が初めて登場するのは『万葉集』で、「秋の野に咲きたる花を指(および)折りかき数ふれば七種(ななくさ)の花」とあって、「七種の花」と綴られています。

 この歌に続いて有名な「芽(はぎ)の花尾花(おばな)葛花(くずばな)瞿麦(なでしこ)の花姫部志(おみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝顔の花」と歌われます。

 いずれも山上憶良の歌です。

 憶良は七つの草ではなくて、七種類の花を主題にして歌ったものが、のちに春の七草、こちらは文字通り「草」と表記されますが、こちらに引きづられて、今では秋の七草という表現がすっかり定着してしまいました。

 ですから本来は原典に戻って「秋の七種」と表記するのが正しいのです。

 子供たちとお月見をしながらこのようなことを話して聞かせましたが、まだまだややこしく難解のようで、花よりもお団子が食べられれば十分なようでした。