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          ロシアの鳩

浄土真宗 光源寺 三上照文


 怒り、貪り、愚かさのことを三毒の煩悩と言って、人間の根本的な煩悩であるとされます。この三毒の煩悩を仏教画の中で、蛇と鳩と猪といった動物に譬えて描かれることがあるそうです。つまり、蛇は怒りの心を表し、鳩は貪りの心、そして、猪は愚かさを象徴するというのです。私はこの話を聞いたとき、蛇が怒りの心を表し、猪は猪突猛進という言葉がありますように、無明の闇の中を突っ走っているような人間の愚かさを表すのだろうと想像がつきました。しかし、鳩は平和の象徴と言われます。それなのに、(なぜ鳩が貪りの象徴なのだろう?)私は少し疑問に思いました。

その時、以前冬のロシアで見た鳩のことを私はふと思い出しました。ロシア人のガイドさんと一緒に市場に行った時、痩せた鳩たちがダンボールをつついていました。そして何か餌を見つけると、他のものを押しのけて餌に群がります。喧嘩を始める鳩もいます。ガイドさんが「どうしてこんな鳥を平和の象徴と呼ぶのですかね?」と言っていたのを印象的に覚えています。確かにその鳩たちは貪りの象徴と言ってもいいような姿でした。

しかし、考えてみますとかわいそうです。気温がマイナス20度30度にもなる冬のロシアで、飢えと寒さの中、鳩も必死で生き抜こうとしているのだと思います。もし私がロシアの鳩だったらどうでしょう?歎異抄の「さるべき業縁のもよほさば、いかなるふるまいひもすべし」という親鸞聖人のお言葉が思い出されます。

仏教画に描かれた貪りの象徴としての鳩は、決してロシアの鳩のことでも、他人事でもありません。貪りの心を生涯捨て去ることの出来ない私自身の姿なのです。

ナモアミダブツ。


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