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          人権と知識

曹洞宗・梅岳寺・末武昭洋


 私達は、幼いころ親や先生から教わったことは、全て正しいことだと思い込んで大事に保存して大人になっても、そのまま持続していることはありませんか?

 私自身の体験ですが、小学生のころ先生がハンセン病について、一生直らない病気で国内にあちこちに隔離した施設が在るのだ。ということを知り、その事を鵜呑みにして十年以上信じておりました。ところがこの病気は特効薬があり、完全に治癒することを知りました。

 小さいころ得た知識は何時までも残るもので、この間違った情報が、差別や偏見等につながる、あるいは差別意識を頭脳にインプットされてしまうのではないかと思います。

 人を差別してはいけない、人権を尊重しなければいけない、ということは,ほとんどの人が充分に理解していると思います。ところが自分自身がこの人権問題に直面すると、差別意識を全く持たないで行動するのは、大変難しいことになるようです。その例がありました。熊本県の温泉ホテルが回復者の宿泊を拒否した事件です。

 当初ホテル側は、営業に支障が出ると判断して、営業成績を落としたくない、と思ったでありましょう。そこで宿泊を拒否したのでしょうが、新聞とかマスコミで大きく取り上げられ大問題になり、結局ホテルを廃業することになってしまいました。ホテル側も取り返しの付かないことになったし、回復者も後味の悪い辛い思いをされたことでしょう。

 この事件で驚いたのは、ホテル側の対応を支持した一般の人達が随分あったと言う事実です。支持するというのは差別を支持すると言うことになります。この人達はハンセン病のことをよく知らないようなのです。完全に治癒した人にもなお非難をし、「人がおおく集まるようなところに、一般の客に混じってなど怪しからん、自ら遠慮すべきだ」との考えのようです。

 意識の底流にあるさまざまな偏見はなかなか取り除くことが出来ない事だと言うことを痛感しました。

 昨年秋、岡山県のハンセン病国立療養所長島愛生園を訪ねました。元患者さんの悲惨、残酷な辛い話をお聞きしました。なかでも「私はおおくの差別を受けましたが、身内、親兄弟、親戚からも差別され、病気が治っても家族の元へ帰れない、本当の名前を語れない、親が死んでも葬式に出席できない。身内からも拒絶されているのです。」と話をされ、辛い思いでお聞きしました。

 問題は、私達は、まだまだ知らないことが沢山ある、という事です。正しい知識、正しいものの見方、正しい判断が出来るように努力をしたいと思います。そして、よく考えて発言し、よく考えて行動すると、他人に対する思いやり優しさも広がるのではないでしょうか。

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。