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      永平寺での修行
曹洞宗・梅岳寺副・末武正憲


 前回は永平寺に上山してからのことを一通り話させて頂きました。

 修行道場といえども二百数十名の修行僧の皆が皆、一様に同じ修行に取り組むわけにはいきません。

 役割が細分化されていて、それを二十の寮舎で受け持ちます。

 例えば、本尊様に供えるお膳や修行僧の食事を作る典座寮、火災予防を初め山内のあらゆる清掃に従事する直歳寮、参拝者の希望に応じて法要を行う祠堂殿、宿泊する参拝者の接客を行う接茶寮、坐禅を希望する参拝者に坐禅指導する参禅係など、その内容は多方面に渡ります。

 私が在籍した知庫寮について紹介します。

 知庫とは財務を担当する人の事で、永平寺内外に対して物品の販売を行います。

 修行道場といえど、生活に必要な日用品が出てくるので、それらの販売や時折支給される物品の配布および永平寺全体の備品管理を行います。

 その知庫寮の公務の一つ、事務所当番についてお話します。

 永平寺に入った受付の隣りに本山事務所という場所がありまして、事務所当番は前日の晩から事務所の隣りの部屋に寝泊まりして、次の日は夜の坐禅までは事務所に詰めっぱなしになります。

 朝昼晩の読経や回廊掃除、臨時の行持といった、いわゆるお寺での修行らしいことは何一つせず、黙々と事務仕事を行います。

 朝は事務所内の掃除から始まり、在庫の点検を行い、食事も朝と昼は他の寮員とは異なる食堂で、他の寮員と交代で適宜摂ります。

 それからは、屋根瓦の修繕費を寄付をしてくれた人に対して礼状を書いたり、外から電話で注文を受けての、物品の販売を行ったりします。

 とりわけ注文の多いのが線香で、他には永平寺関係の書籍、スリッパ、お経本、あと知る人ぞ知る吉祥せんべいなどを扱っています。

 余談ですが、吉祥せんべいというのは純粋に永平寺の中で売っている唯一の食品でありながら、売店では無く、その隣りの瓦カウンターという所で売っていて、しかも宣伝もしてないので知らない人も多いと思います。

 参拝された際にはお土産としてどうぞ。

 なぜ知庫寮の事務所当番を紹介したのかといいますと、一般の人が思い描く修行のうち、最も修行らしからぬ仕事の一つだからです。

 他の寮舎では、窓口業務や接客業などもこなします。およそ修行とは縁遠い気がしますが、檀家さんのいない永平寺では、修行僧以外の人と関わる貴重な仕事です。

 読経や坐禅だけでなく、こうした仕事も全て修行ととらえるのが永平寺です。

 私は永平寺に一年半ほどおりましたが、一般社会においては、修行と関係なさそうな副次的に覚えたことが大いに役立っております。